ミヤマキリシマと私 ~三たび魅せられて~

美しい景色が見たい。

 登山は好きではないが、美しい景色が待っているのなら、ちょっとだけ辛抱して、少しづつ坂を登る。息が切れ、筋肉は強張り、足元は次第におぼつかなくなる。連れのいない登山は、私だけの世界。いつでも休めるし、引き返すのも自由。意地も定めもない、気ままな旅路。

 さて、ミヤマキリシマの絶景を求めて高千穂峰に挑んだのが、2020年5月23日のこと。六分咲きで心を奪われた私は満開を求めて、1週間後に家族と再び高千穂河原を訪れ、群生地の鹿ヶ原へハイキングを敢行しました。相変わらず霧に包まれて、小雨は止みそうもない。普段であれば中止の遠足も、桃源郷がすぐ近所に現れたとあっては、多少の無理は禁じ得ない。掻き集めた軽量の折り畳み傘を家族に配り、最低限の水と行動食を持たせて、片道わずか15分の森林浴を楽しみます。

ビジターセンターで頂いた鹿ヶ原までの地図

 不安材料としては、運動の習慣がない妻の消極性のみでしたが、悪い予感は的中し、鹿ヶ原到着直後に腹痛でダウン。見るからに気分が悪そうな妻とこのままUターンしたものか一瞬考えましたが、ドス黒い写欲が勝ったため、ひとまず娘を付き添わせて先に返します。息子と数分間だけ撮影、散策して後を追いかけ、幸いにも大事には至りませんでしたが、妻と娘に素晴らしい景色で楽しんでもらうどころか、写真廚の悪癖を露呈させるアクシデントとして、大きな借りを作ってしまったのです。

鹿ヶ原展望所

 口では言いながら、本当は誰かのために撮るわけではなく、自分の狂おしいほどの写欲を満たすためだけに撮っている。優れた作品を残す作家ほど、おそらくはこのカルマと向き合い、欲望を形に表すためにしのぎを削っている。その姿勢が時に社会問題として、鉄道ファンや航空ファンの占有や小競り合い、リフレクション(反射)を撮りたいから勝手に他人の田んぼに水を張ったなどと、どれだけ相手に迷惑がかかるのか計算もしないまま、己の欲求に抗わない。その異端さは、カメラに触れた事のない方には理解しかねる愚行に映るであろうが、私には分からない事もない。法律やマナーから足元を踏み外す事のないよう、自身を制御しつつ、欲望と向き合うのみであろう。そういう意味であれば、この日の私は零点である(自覚はある)。

 ともあれ、霧に包まれた満開の鹿ヶ原撮影に成功したものの、モヤモヤした気分は拭い去れない。幸いにも妻は、せっかく誘ってくれたのにケチを付けたと解釈したようですが、あくまで結果論であり、いつか大きな騒動を起こした時に「あの時置き去りに云々」とほじくり返されるのは目に見えているので、少しづつでも歪みを和らげるため、私は写真以外の営みを意識しなければならない。この窮屈さは、家庭持ち写真家の美徳であり、独身貴族には負けらんねぇ!と奮い立たせる、一つの拠り所なのかもしれません。冗談か本当かはさておき、目的だった空撮は取り止めになったので、梅雨の晴れ間を目掛けて、後日3度目の正直に挑んでしまったのです。

 条件が整ったその日は、朝から南九州登山隊の別のメンバーが、天孫降臨コースと呼ばれる高原町から高千穂峰の登頂を目指しており、彼のレポートでどこまで行くか判断する事にしていました。とりあえず12:30に高千穂河原を出発し、駆け足で鹿ヶ原へ。日光が雲で拡散される鈍い晴れ間でしたが、驚いたのがミヤマキリシマの枯れ具合!数日前の半分ほどしか花が残っておらず、軽くショックを受けてしまいます。満開の後はちょっとの雨で花が落ちてしまうそうなので仕方ないのですが、雨の心配は無さそうなので、ドローンによる空撮を3回試みました。展望所では知り合いにも出会え、数株しかない白のミヤマキリシマも撮影できて、前回と打って変わって気分が上がります。撮れ高を確保したので、いい気分で帰ろうかと踵を返したその時、「いま高千穂峰から降りてきたけど、上は綺麗だったよ〜(にっこり)」という感想を、小耳に挟みました。

 時刻はまだ14:00。前回御鉢まで二時間も掛かりましたが、それでも十分に日暮れまで戻って来られる。速やかに判断して、そのまま御鉢を目指す事に。こんな事もあろうかと靴と靴下、コンプレッションタイツやトレッキングポールなど持参していたので、水1Lに携行食を加えた最低限の荷物で出発。前回の大きな失敗が、出がけに食べたバッテラ寿司が重くて、固形物を消化しながら急坂を登ったことですぐバテたという経験でした。今回は鹿ヶ原までの平坦往復2kmでウォームアップが済んでいたおかげか足取りが軽く、わずか1時間で御鉢に到着。青空も出てきた絶好のロケーションで、貸し切り1時間もの撮影を楽しみました。前回より花が増えたかと言われると微妙でしたが、雄大な火口を独り占めしているだけで、なんだか自分が、大きな事を成し遂げたような錯覚に浸れます。ひょっとしたらもう、登山が好きになりかけているのかも。

晴れ男が登れば、ざっとこんなもんです(笑)

 しばらくは梅雨やら酷暑やらで登山はお預けのつもりですが、生死の距離が限りなく近い登山というスポーツは、生きづらい浮世でしぶとく生き残るための活力を与えてくれる場所だと思います。何より行き交う登山客は総じてマナーが素晴らしい!有酸素運動なのでダイエットには持ってこい、山メシは好きなだけ食べても(消費されるので)実質カロリー0!運が良ければ、見たこともない絶景を拝めます。さぁ皆さんも、秋登山に向けて今からトレーニングを始めましょうか!南九州登山隊では、メンバーを募集しています。未経験者大歓迎!参加したら動画で晒される(!)という特典付きですが、興味がある方のお問い合わせを、お待ちしております。。

Joji Ikeda

この記事を書いた人:

プロフィール

2003年に個人事業を開業。

出来ること

パソコン・ネットワーク環境構築、保守等
プロフィールおよびロケ撮影等(写真・動画・空撮)
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